職場でのストレスの多くは、実は「人間関係」から生まれています。
上司との行き違い、同僚との摩擦、部下への伝え方の難しさ
こうした日々の小さな積み重ねが、心身の不調につながることも少なくありません。
今回は、こうした対人ストレスを理解し、和らげるヒントとして「非暴力コミュニケーション(NVC)」という考え方をご紹介します。
なぜ職場の人間関係はストレスになるのか
職場でのイライラや不安の多くは、「自分の気持ちや考えがうまく伝わらない」「相手の言動の意図がわからない」といった、コミュニケーションのすれ違いから生じています。
たとえば、メールの返信がなかなか来ないとき。「無視されているのでは」と感じて落ち込んだり「なんで返事をくれないんだ」と腹が立ったりすることはないでしょうか。
こうしたとき、私たちは無意識のうちに相手の行動を「評価」し、そこにネガティブな意味づけをしてしまいがちです。この「評価」や「決めつけ」が、ストレスをさらに大きくしてしまうことがあります。
非暴力コミュニケーション(NVC)とは
NVCは、アメリカの心理学者マーシャル・ローゼンバーグが提唱したコミュニケーションの考え方です。「誰が正しくて誰が間違っているか」という評価から離れ「お互いが何を感じ、何を必要としているか」に目を向けることで、対立を減らし、理解を深めることを目指します。
NVCでは、コミュニケーションを4つの要素に分けて考えます。
1. 観察:事実と評価を分ける
「あの人はいつも遅刻する」「彼女は無責任だ」——こうした言葉には、すでに評価や決めつけが含まれています。
NVCでは、まず「事実」だけを見ることを大切にします。「今朝の会議に15分遅れて到着した」というように、ビデオカメラが記録するような客観的な事実に注目します。
2. 感情:自分の内側に目を向ける
「無視されていると感じる」「操られている気がする」——これらは一見すると感情のようですが、実は「相手がこうしているに違いない」という解釈が含まれています。
純粋な感情とは「不安を感じている」「困惑している」「悲しい」といった、自分の内側の状態のことです。「メールの返信がなくて、不安を感じている」と表現することで、相手を責めずに自分の状態を伝えることができます。
3. ニーズ:本当に求めているものを探る
怒りや不満の奥には「満たされていないニーズ」が隠れていることが多いものです。尊重されたい、効率よく仕事を進めたい、自分のペースを守りたい——こうした普遍的な欲求に気づくことで、問題の本質が見えてくることがあります。
4. リクエスト:具体的に伝える
「もっとしっかりやって」のような曖昧な言葉は、相手にとっては何をすればいいかわかりません。「もし遅れる場合は、会議の30分前までに連絡をもらえますか?」のように、具体的で実行可能な形で伝えることが大切です。
「自分への共感」という視点
NVCの考え方は、他者とのコミュニケーションだけでなく、自分自身との向き合い方にも応用できます。
ストレスを感じたとき「今、自分は何を感じているのだろう?」「どんなニーズが満たされていないのだろう?」と自分に問いかけてみる。疲れているのか、認めてほしいのか、休息が必要なのか——自分の状態を丁寧に観察することで、感情に振り回されにくくなることがあります。
また、同僚や上司から厳しい言葉を受けたとき「この人は今、何を必要としているのだろう?」と捉え直してみることで、過度に傷つくことを防げる場合もあります。
まとめ:考え方の整理として
NVCの考え方を、現在の職場環境にそのまま当てはめるのは、現実には難しいことも多いでしょう。相手との関係性や職場の文化、パワーバランスなど、さまざまな要因が絡み合っているからです。
ただ、この考え方は「自分が職場の人間関係をどう捉えているか」を振り返る手がかりにはなるかもしれません。「自分は相手の行動をどう解釈しているか」「本当は何を求めているのか」——そうした視点から自分の状態を見つめ直すことが、ストレスとの付き合い方を考える第一歩になることもあります。
もし職場のストレスが心身に影響を及ぼしていると感じたら、一人で抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。
文責 院長(医学博士、日本専門医機構認定精神科専門医、認定産業医)
